代用監獄と裁判員制度

     過去記事で私は、「取調べの可視化や代用監獄の廃止が進まないうちに裁判員制度が実施されることの危険性を感じるようになっている」と書いたことがあります。「どうして?」をここで書こうと思うのですが、まず代用監獄とはどういう性質のものなのか、「突っ込み布川」に書いた下記記事を引用します。
     布川事件は、Tさん殺しと桜井さん杉山さんを結びつけるものが自白しかない、証拠のない自白裁判です。カテゴリー「自白の変遷」のところでも書いたように、桜井さんは取手署で、杉山さんは水海道署で取調べを受け、自白に追い込まれます。いずれも警察留置場代用監獄です。
     カテゴリー「自白の変遷」「最終的な自白に関するの問題点」に出てくる検察官調書も代用監獄で作られたのですが、布川事件では実は否認調書も作られています。桜井さん杉山さんは、代用監獄でTさん殺しを自白し、警察での取り調べがほぼ終了した11月に土浦拘置所に移され、否認調書はここでA検事によって作られます。
     ところが、その後、杉山さんは代用監獄土浦署へ、桜井さんは代用監獄取手署へ逆送されてしまいます。警察官から「検事さんの所でゴネたみたいだな」「なぜ検事に否認したか」と追及され、再び自白に転じ、Y検事によって自白調書が作られます。Y検事は検察官であるのに、わざわざ警察留置場代用監獄に出向いてきたわけです。カテゴリー「自白の変遷」に出てくる検察官調書は、この自白です。
     Y検事によって、最終的な自白調書が出来上がり、二人は12月28日にTさん殺しで起訴されました。勾留質問をした裁判官に対して桜井さんは、Tさん殺しを認めました。なぜならば、裁判所に行く際、取調べを担当した警察官が同行し、勾留質問のときも背後に警察官がいたからです。拘置所でA検事に否認したのを理由に代用監獄に逆送され、「なぜ検事に否認したか」と警察官から責められ、再び自白に転じたのですから、裁判官に対する勾留質問とはいえ、背後に警察官のいるところで否認したら、代用監獄に戻ってからどんな目に遭うか知れたものじゃありません。だから認めたのです。そしてちゃんと起訴され、もう代用監獄に戻る心配がなくなってからは一貫して無実を主張するようになります。
         
    (「突っ込み布川」より)

     以前、布川事件代表世話人の中田先生は、(布川事件について)くわしいことは聞かなくても、調書なんか読まなくても、桜井さん杉山さんが拘置所から代用監獄へ逆送されたと聞いただけで、「やられたな」とピンときたと話されていました。
     ちゃんと起訴され、拘置所に移り、代用監獄に戻る心配がなくなってからは、桜井さん杉山さんも無実を主張するようになりました。しかしそれでも、代用監獄で作られた自白調書を読んだ裁判官は、「やってない者が自白なんかするわけない」と、目の前で「やっていない」と言う二人の主張を退けてしまいます。それほど自白調書は、現実問題として、裁判官の心証形成に大きな影響力をもっているわけです。「代用監獄は自白させるためにある」「代用監獄はえん罪の温床」と言われているのは、こういうことなんですね。
     この代用監獄の廃止を求めて日弁連などが取り組んできたのですが、昨年6月に、廃止どころか存続、しかも起訴後も未決のうちは代用監獄に留置できるようになってしまいました(朝日新聞記事参照)。ということは、裁判所から戻る場所が拘置所でなく代用監獄なのだから、裁判が始まっても無実を主張できなくなってしまいますよね。
    21世紀は、専門家と市民が協同して物事を決める時代。市民の納得と理解を得られない専門家だけの議論は通用しない。供述調書を読んで心証を形成することなど裁判員にはできない。裁判員制度の実施により、これまでの調書裁判から直接主義・口頭主義を実質化した公判中心の裁判に移行するし、そうせざるをえない。
    (「なぜ、いま代用監獄か」P59 より)
     で、上記引用文のごとく、裁判員制度に期待されているのは、調書裁判から直接主義・口頭主義への移行でもあります。要するに、裁判員は分厚い自白調書なんか読まないから、目の前にいる被告人の話を聞きながら判断するだろうというわけですが、裁判所から戻る場所が代用監獄ならば、裁判が始まっても、裁判員が直接何を聞いても、裁判員の前でウソの自白を維持することになってしまいますよね。
     これで裁判員制度導入の意味ありますか? 冒頭で「取調べの可視化や代用監獄の廃止が進まないうちに裁判員制度が実施されることの危険性を感じるようになっている」と書いたのは、こういうことなんです。
  • 2007.03.17 Saturday
  • 14:45
  • 裁判員制度
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  • 2017.07.25 Tuesday
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